※番外編ブログ※ story 5 『ノックした扉』

※このブログは、「キセキの杜 ジョブステーション」で働く、生活支援員Nの物語です。

 

story 5 『ノックした扉』

大好きな友人がいる。
彼女は少し風変わりで、どこか掴めない不思議な魅力があった。

奇麗な顔立ちで存在感もあり、放つオーラがどんどん人を惹き付ける。
けれど当の本人は、人と群れる事を好まず、常に気まぐれな自由人で、好き嫌いもはっきりしていた。

私はそんな彼女を、知れば知るほど好きになった。
周りに誤解されやすいことを勝手に心配したり、構い過ぎて嫌われないかと不安になったり、
理解したい一心で、彼女の行動や言語に一喜一憂してしまう。

彼女は私を不思議そうに見つめては、ケラケラと笑い飛ばした。
「そんなこと気にしてたのー!」屈託のない笑顔で笑う。

彼女は時折、話しかけても返事をしない。悪気はなく、本当に聞こえないようなのだ。
最初は意地悪をされているのかと勘違いしてしまったけれど、見ているとそうじゃない。

同じように声掛けをスルーされ、困惑している人を見かけたが、
少し間を置いて再度話しかけると、何事もなかったかのように心良く応対する。
次第に、「タイミング」の問題なんだな、と分かってきた。

いつだったか、彼女の運転で長距離を走った事がある。
夜に出発し、朝方、目的地へ到着するというドライブコース。

運転する彼女に悪いからと寝ずに頑張ったけれど、明け方の睡魔に負けて、助手席でウトウトした私。
彼女は陽が昇るまで、一睡も仮眠せず、ハンドルを握り締めていた。

「こういう時、過集中だから平気なんだよね」

彼女が静かに呟いた。

……カシュウチュウ?

初めて聞いた言葉。その時は、寝ぼけた頭で「ふうん、」と聞き流してしまったのだけど。

あとになって彼女から色々と話を聞いた。
過集中だったり、かと思えば、記憶が飛んでいたり……。
他にも、「普通の人が普通に出来る事が出来ない」、それがすごくコンプレックスだったと。

ある分野でずば抜けた才能を持つ彼女は、周囲から、
「貴女は特別な才能があるんだから、普通の事なんてできなくていいの」
そう言われてとても歯がゆく、「何故出来ないんだろう?」と、辛い思いをしてきたんだそうだ。
最近になって、その原因が脳機能の問題かも知れないと分かり、逆にとても安堵したらしい。

私は彼女に憧れを抱いていて、そんなコンプレックスがあったなんて思いもしなかった。
個性だからいいのに!と、その時も、気楽に考えてしまった記憶がある。

恩師が倒れ、福祉の仕事に就くと決めた。介護の道へ進もうとしたところで、いったん立ち止まった。
改めて色々と模索している最中、この彼女の話をふいに思い出した。

過集中、という言葉から、ADHDを知る。
発達障害についても、「何となく聞いたことがある」程度の知識から、もう少し深く掘り下げていった。
今思えば、彼女の苦しみは、その言葉以上に重たかったに違いない。

彼女の言葉を安易に捉えた自分を恥じた。

本人が苦しんでいるのなら、簡単に個性などと片付けられない。

発達障害。
この言葉がキーワードになり、私はようやくこの世の中に、「就労移行支援所」なるものが存在する事を知った。

「やりたいこと」と「やれること」。ひとつの線が、一瞬にしてその双方を結びつける。
これだ!と思った。私がノックしたい扉。これまでの社会人経験を活かせる、障害福祉の仕事。

その人がその人らしく、一般社会に呑まれず、一般社会からはじき出されず、生きていく。
生きづらい部分を強みに変えることは出来る。
「障害があるからできない」と諦めて欲しくない。

就労移行支援事業所での、生活支援員という職種は、
私のもやもやとした心を一瞬にしてクリアにしてくれた。

「やりたいこと、やれることが分からない」という漠然とした不安は、人から生きる活力を奪ってしまう。
逆に言えば、どんなに困難であろうと、進みたい道を見つけさえすれば、人は結構頑張れる。
私自身も、そして彼女にとっても、それは同じことだ。

ノックした扉の先にどんな道があるのかは分からない。ただ、私の胸は高鳴っていた。(つづく)

 

次回、story6『会いたいのに会えない』の更新予定は2022/3/21です!

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