※番外編ブログ※ story 7 『情熱と業務』

※このブログは、「キセキの杜 ジョブステーション」で働く、生活支援員Nの物語です。

 

story 7 『情熱と業務』

普段歩いている何気ない駅までの道のりが、長い長い試練の道のように思えた。
転職活動開始から3ヵ月。

どうして転職しようと思ったのか、その軸はブレてない。
動いてみて、それまで見えていなかったことも見えて来た。
内心、やれると思った……。

なのに。

一旦立ち止まり、再度加速して、壁にぶつかり途方に暮れる。

仕事が決まらない。このままだと……生活ができない。

なんだろう、世の中すべてが灰色に見えるような不安感。
きっとこの不安は、実際その状況に陥った者にしか分からない。

そのくらい、足取りは重かった。

送っても送っても通らない書類選考の中身は、何度も自分で推敲を行った。
闇雲にネットで求人を漁っては、足しげく、某職業紹介機関へ通う。

「窓口業務」の仕事が、歯がゆく思えたのもこの時が初めてだった。

紹介機関の窓口の方々は、当然のことだけれど、いつも事務的で素っ気ない。
求人情報の詳細を丁寧に案内はしてくれるものの、
特にこれと言ったアドバイスをくれるわけでもなく、並んだ求職者を捌いていくだけ。

普段は気にならないその対応も、この時の私の精神状態では、
「他人事だとしても、もう少し親身になってくれても良いのでは?」という苛立ちに変わる。
その都度、「いや、甘えるな、結局は自分で動くしかないんだから……」と溜息をついた。

その日も、いくつか並ぶ窓口の、どこかひとつが空くのを、ぼんやり眺めながら待っていた。

眺めていて、ふと、もんもんとした感情が湧いてくる。
ああ、あのおじさまは嫌だな……。いつも坦々としてるし、なんだか頼りない。
定年間近?なんだろうか。もはや、やる気というか「覇気」がない。
自分との温度差がありすぎる。こちらは必死なのに……!

そんなマイナス思考に囚われていると、案の定、その方の窓口が空き、呼ばれてしまった……。
さらに、溜息。

「ここに応募したいんですが」
求人情報を差し出すと、おじさまは私の顔をちらりと見た後、独り言のように呟いた。

「あなた、なんで決まらないんだろうねえ」

「は?」

「いや、事務経験こんなに長くて、応募先は未経験可の企業ばかりでしょ、
なんで決まらないの。すぐに決まりそうなもんなのに」

それまでに何度かこの方に対応してもらったものの、こんな話をされたのは初めてだった。
いつの間にか顔を覚えられてしまったようだ。私は思わず、ここぞとばかりに訴えた。

「どうしてもこの職種がいいんです!他じゃ駄目なんです。
でも福祉系の職種なので、未経験可でも難しいみたいで……」

私の必死感が伝わったのか、おじさまの表情が微妙に変化する。

「どれ、履歴書ある?ちょっと応募書類見せて」

驚いた。おじさまは赤ボールペンを取り出し、私の応募書類を真剣に見始めたのだ。
それまでとはまるで違う顔つきで、突然、プロの眼差しになる。
私は急にドキドキしてきた。それまで分からなかった選考落ちの要因が、分かるかも知れない。
知りたい。「どこ!私の足りないところはどこ!」心の中で叫ぶ。

「だめだよ、これじゃあ~」
おじさまは高らかに第一声を上げた。

自分の打ち出し方、載せるべき内容、省くべき内容、段落や句読点、
細部の言い回し、資格の順番や備考欄……。そして、採用される為の、「コツ」。

おじさまはなんだか楽しげに添削を終え、訂正箇所ひとつひとつを説明した上で、
「とっておきの職務経歴書のフォーマットをあげようかね」と、引き出しから見本を出してくれた。

目から鱗だった。蛇の道は蛇。餅は餅屋。プロにはやはりプロとしての知識と経験がある。

私がいちいち感嘆の声を上げ御礼を言うと、おじさまは笑いながら、
「直したら持ってくる?」と名刺まで渡してくれたのだ。
「すぐに直して、明日また来ます!」

私は飛び出して帰路へ着いた。起こった出来事に少し興奮気味だった。
足早に歩きながら考える。

よかった!
でも、なによ、おじさま本当はすごいじゃん!どうして最初から……

そう思ったところでハッとする。

おじさまを素っ気なくさせてたのは、もしかしたら、求職者の方かも知れない。

就労移行支援の職に就いた今だから、余計に分かる。
サポートしたい、と思わせる利用者の方には、「情熱」がある。
サポートする側も人間だ。やっぱり、一生懸命な人ほど応援したくなるのは人の性。

「努力せずに人任せ」もしそんな求職者が続いたとしたら、おじさまだって、素っ気なくもなるだろう。

本気だと伝わることで本気は伝染する。
発信という行為には、周りを巻き込み、味方を増やす力がある。

その道のプロのサポートを得た私は、鬼(情熱)に金棒(知識)だった。

もし支援員になれたら、おじさまのように、プロとして的確なサポートをしたい。
そう強く思ったのを覚えている。情熱を形にする、プロの業務の大切さ。

「これからえらく情熱的な方がそちらに応募しますから」なんて先方へ連絡を入れながらニヤニヤするおじさま。
「決まったらお酒の一本でもお持ちします!」なんて冗談を言えるほど元気になった私。

そうこうするうちに、ようやく書類選考通過の知らせをもらえるようになったのだ。(つづく)

 

次回、story8『かんばせ』の更新予定は2022/5/2です!

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